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「サトリ、どうしてここに?」
ニアは、ゼル中尉とキル伍長に気づかれない程度の小さな声で、サトリにそう尋ねた。
「どうしてって…レイ二等兵に手合せお願いしに行こうとしてたんだけど、さすがにこの時間に女子寮を訪ねる勇気はなくてさ…時間つぶしに散歩してたら、柱に隠れてるお前を見つけたんで、ちょっと驚かせてやろうと思ったわけだ。」
なんで驚かす発想になっちゃうのかよくわかんないけど、なんにしても、相手がサトリでよかったとニアは思った。
ニアがほっとした表情で肩をなでおろしていると、サトリがゼル中尉とキル伍長の方を指さして言葉をこぼした。
「話しかけないのか?あの二人に。」
「話しかけないよ…。特に用事はないし…忙しそうだし。」
ニアが俯いてそう答えると、サトリはニアのその答えに違和感を感じたのか、ムッとした顔をした後、ニアの手を掴んで口を開いた。
「用事は無いってお前…明らかに用事ありげな顔してるじゃねえかよ…。単に話しかけられないだけだろ…。」
「ち、ちがうもん!話しかけれるもん!」
「じゃあ話しかけてこいよ…。早くしないと、二人ともどっかいっちまうぞ?」
サトリがそう言いながらニアを柱の影から出そうとすると、ニアは少し抵抗を見せた後、サトリから離れてその場から走って逃げて行った。
「ちょ…っ…待てよニア!はぁ…逃げたってなにも変わらないのに…。」
そう呟くサトリの声が、逃げるニアに届くことはなかった。
数分後、逃げたニアは自室に戻り部屋の鍵を閉めると、ベッドにダイブして枕をぼぶぼぶと殴った後、枕に顔を埋めていた。
どうして逃げちゃったんだろ…。
サトリに図星突かれたことが嫌だったわけではないのに…。
なんで、あと一歩が踏み出せなかったんだろう。
わかんない、わかんないよ…。
ニアはそう考え込みながら、傍にあった犬のぬいぐるみを抱きしめ、枕に少し涙を落とした。
それからニアは、ひどい眠気と疲労に襲われて、意識を手放した。
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