はじめの

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はじめの

 物心ついたころには、既に彼らが見えていた。  たとえば、子供の小指ほどの駆け巡る影。ちょろちょろと動き回る彼らを、幼い私はじっと観察することで時間を潰していた。彼らはこちらが危害を加えなければ特に何もせず、ただ己が興味のうつるままに行動するだけだ。時々、私の身体に上って遊ぶこともある。  それらの他にもしょっちゅう色んなものを見た。空を飛ぶ蛇のようなものや、影でできた蝶のようなもの。そんな得体のしれないものたちが、いつも私の世界に居た。空恐ろしいほど美しいものを見たこともあれば、近くにいるだけで、そのおぞましさに肌が粟立つような奴にあったこともある。  そういうものは、きまって私以外の殆どの人には見えないらしかった。  だが、幸いにも、というべきか、私は他の子と交流しない子だった。  関わって来られたらこちらもそれなりに関わるものの、向こうから来ない限りは何もしない。そのうえ、その「向こうから話し掛けてくる」ということが、他の子と比べて極端に少なかった。そのため、傍から見れば気味悪がられるような、例えば何もない宙を目で追ったり、突然何かを避けるような仕草をしたりという行動は、周囲にあまり知れずに済んだ。もしかしたら、彼らなりに私から――というよりは『コレ』から――何かしら感じ取っていたのかもしれない。  お蔭で、先生や両親には心配をかけていたかもしれないが、まあそれなりに普通の子のような生活を送ることが出来ている。  だがそれでも、生活する中で、どうしても彼らと関わっていかなければならないことがある。  持って生まれた定めというかなんというか、まあそのようなものだと割り切って、今日も私は暮らしている。
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