第1章 気が付くとそこは幕末でした。

2/24
前へ
/60ページ
次へ
ーー平成二十六年四月某日。 京都、阪急河原町駅から東に歩くこと二十分弱。 東山を背にした円山公園は名物枝垂れ桜の見頃と重なり、午前十時前にも関わらず、多くの人で賑わっていた。 その中でも一際規模の大きい集団がある。 どうやら校外学習で京都にやってきた高校生たちらしい。 青々とどこまでも澄み渡った空のもと、整列させられた数百人の高校生たちはどこか浮き足立っていた。 それもそのはず。 高校生たちは学年主任のこの諸注意が終わると自由行動の予定だからだ。 「ーー午後五時、ここに集合。全員揃った班から解散とする。それまでは自由行動。以上!」 学年主任がそう告げると高校生たちは待ってましたと言わんばかりにあっという間に散り散りになる。 班行動など名ばかり。実際は気のしれた友人同士でわらわらと集まっていた。 その中でも特に俊敏な動きで友人に飛びかかった女子高生の目は眩いばかりに輝いていた。 「はるー! 三条の方行こ!」 再三教師に注意されたであろうゆるふわの明るい茶髪ロングにばっちりメイクの彼女だが、見た目に寄らず京都が好きで好きで仕方がないと言った様子だ。 京都の地理にも明るいらしい。 だが呼ばれた方のはる、こと、柳田はるは首を傾げるばかり。 下ろされた黒髪は腰ほどまでの長さ。 丸顔で、垂れ目、小さな鼻、ぷっくらとした唇。 か細く小柄な体躯(たいく)。 はるの方こそいかにも京都が好きそうな純和風の外見をしているのだが、どうやらそんなことはないらしい。 「えっ、なっちゃん、三条ってどっち?」 「北! 池田屋があるの。三条から更に北に進めば京都御所もあるし、ねぇ、お願い!」 はるになっちゃんと呼ばれた女子、畑山奈津子は顔の前で手をパンとあわせて懇願する。 が、はるには奈津子の行きたがってる場所がまるでわからない。 その上皆目興味もわかないものだから思わず眉を寄せてしまう。 「えぇ~」 「帰りに抹茶パフェ奢るから」 「行きます喜んで」 即答。 もうこれ以上ないくらいの即答。 花より団子。色気より食い気。 甘い物に目がないはるはまんまと奈津子の誘いに乗ってしまうのであった。 これが彼女自身の運命を変えることも知らずに。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

248人が本棚に入れています
本棚に追加