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ーー会ってみたいなぁ。
漠然と、それでいて強く強くそう思った。
ーー私も、必死に生きてみたい。
確然と、それでいてただただ抽象的な願望だった。
そんなはるの思考を遮ったのは嬉々とした奈津子の声。
「はる! 池田屋、あそこ!」
「えっ、なっちゃん、ちょっと待っ、」
見つけたと同時に奈津子は走り出してしまう。
観光客でごった返す大通りを奈津子は猫のようにすり抜けていく。
はるも奈津子に続かんと踏み出した時、目を覆うほどの強烈な閃光がはるを襲った。
瞬間ーーはるの姿が忽然と姿を消した。
誰一人として気付くことなく、その場から。
「はる……?」
はるがついてきていないことをようやく認識した奈津子が振り返った時には、たくさんの人々で賑わう三条の大通りだけが変わらずあった。
「あぁ、はぐれちゃったか……」
興奮するとつい周りが見えなくなる自分の性格を恨めしく思った。
とはいうもののそう不安でもない。
制服のポケットから携帯電話を取り出すと電話をかけ始める。
「あっれぇ、出ないなぁ……。この賑わいだから着信に気付いてないのかしら。まぁ、気付いたらかけ直してくれるよね」
楽観的に一人そう頷いた奈津子。
しかし、はるから奈津子に電話がかかることはとうとうなかった。
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