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「ん……何、今の光……」
はるはうっすらと目を開けると肌寒さに思わず肩を抱いた。
続いて息を呑む。
「えっ……」
辺りの光景が視界に入って何やらおかしいことに気付いた。
確か時刻は正午にもなっていなかったはずで、自分が目を瞑っていた時間などほんの数秒。
にもかかわらず真っ赤な夕焼け空。
人でごった返していた通りだが、随分と減っている。
奈津子の姿も見当たらない。
そして何より人々は皆、着物を着て髪を結い、草履や下駄を履いているのだ。
周囲にはビルも電柱もなく、長屋が続いている。
こんな景色に見覚えなどない。
はるの服装は制服のブレザーとスカート、ローファー。
はるだけがこの中で紛れもなく異質だった。
行き交う人々ははるを凝視する者もあれば、連れと囁き合う者もあった。
思考が追いつかず、じんわりとした嫌な汗が背中を伝う。
そんな折り、呆然として立ち尽くしているはるの肩を背後から掴む者があった。
「オイ、貴様、何奴」
「妙な格好をしておるな。ちょっと着いてきてもらおうか」
顔を向けると厳つい顔をした屈強な男が二人いる。
語調は荒々しく、横柄な物言いだった。
ーー怖い。
わけのわからぬ恐怖に支配されたはるは考えるより先に男の一人を突き飛ばし、その次の瞬間には走り出していた。
一瞬よろけた男だったがすぐに態勢を立て直し、はるを追う。
「貴様、待て!」
怒気を孕んだ野太い男の声を背に受けながらはるは懸命に駆けた。
行く当てなどもちろんなかった。
この状況では自分はこれからどうなるのか、自分はどうすればいいのかを考える暇さえない。
それでも震える足をなんとか動かし、がむしゃらに走った。
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