第1章 気が付くとそこは幕末でした。

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小五郎は、閉口してしまったはるの顔を怪訝そうにじっと見つめる。 「どうしましたか?」 「私は三条の方から走ってきたのは確かなんです……なのにここは私の知ってる場所とは違くて……もう何が何だか……」 震える声と血の気の引いた顔色を見て小五郎はただごとではないと悟ったらしい。 はるに目線を合わせて彼女が怯えないようゆっくり一言一言丁寧に話しかける。 「一旦屋敷に行きましょう。話はそこで聞きます。あともう“十月”も半ばを過ぎたというのにそのように足を出していては寒過ぎます。変な男にも絡まれかねない。ひとまず上だけでも暖かくしなさい」 小五郎は自分の羽織っていた羽織をはるに着せる。 しかし、はるには小五郎の言葉にぎょっとした。 「十月……? 今は四月じゃないんですか……?」 「本当に大丈夫ですか? 今は十月です。辺りをご覧なさい」 「嘘、でしょ……」 はるが辺りを見渡すと真っ赤に色付いた紅葉。 役人から逃げることに必死で気付かなかった。 自分がいたのは四月、それも正午にもなっていなかったはず。 なのに今は十月の夕方。 時刻だけではなく、季節まで違うなどにわかに信じ難い。 いよいよただごとではない、そう悟る。 極度の恐怖と不安と混乱が重なり、ガタガタと震え始めたかと思うとはるはふっと意識を飛ばしてしまった。 小五郎ははるが崩れる前に彼女の華奢な身体を抱きとめる。 「お嬢さん! しっかりなさい!」 呼びかけても返事はない。 顔面は蒼白で、この寒さにもかかわらず、額には汗が滲んでいる。 小五郎ははるの背と膝裏に手を回し、軽々と抱えると足早に長州藩邸へと向かった。
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