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草木をかき分け、雪江とウズメ、そしてそのウズメに背負われたアマテラスの三人は、来た道を全力で引き返していた。
俺達と別れた中腹点は少し前に越えた。そこに到達するのにさえも、かなりの距離があったはず。それにもかかわらず、二人の足は休むことを知らずに走り続けていた。
「そろそろ…話してくれても…いいんじゃないか?」
「そうね…でも、私が語るよりも、この子から聞いたほうがいいかな」
そう言って取り出したのは、先ほどまでアマテラスが封印されていた石だった。
「やっぱり、ただの石ってわけじゃないよな。いったい何なんだこれは?」
「ウズメちゃんの大切なものよ…」
石をそっと、ウズメの額にくっつける。
「もともと、私に扱えるものではないのよ。この子は…ううん。あとは直接本人から聞いたほうがいいわね」
アマテラスが何かをウズメの耳元で呟く。その次の瞬間、ウズメの視界には先ほどまであった木々などが一掃され、何もない開けた空間が広がっていた。
ここは…?
そんなことを思っていたウズメの目の前に、一つの存在が感じ取られた。ただ、姿は見えない。いや、この世界そのものとでも言うべきなのか?
しかし、確かにそいつは目の前に存在していた。
「お前は…誰なんだ?」
『久しぶりに逢えたと思ったら、一言目が誰だ?ですって…わたくしショックで泣きそうですわ』
ウズメの問いかけに、その存在から返答がかえる。その言葉遣いは全然子供らしからぬものだった。しかし、それに相反して聞こえてきた声は、間違いなく幼い少女のもの。そのアンバランスさに、言いようのない笑いが込み上げ、先ほどまで張り詰めていたウズメの緊張は、少しずつ和らいでいった。
『はぁ…まさか数千、数百年という、気が遠くなるほど長い間待ち続けた方に、再会突如馬鹿笑いされるとは思いませんでしたわ…』
「あははは…わりぃわりぃ…」
『もういいですわ…最初からロマンチックな再会なんて、これっぽちも期待していませんでしたもの。
むしろ、ウズメ様がお変わりないようで安心いたしましたわ』
相手の姿は見えないがウズメには分かっていた。この少女の声をした存在が、自分との出会いを本当に喜び、今も笑顔で迎えてくれていることを。
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