書家と篆刻家

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通された一室は作業部屋に隣り合った四畳半のこじんまりとした和室だった。 二人並んで座るには手狭な文机が置かれているだけで、 部屋の隅には紙の束と思われる段ボール箱がいくつも積み上げられている。 私は営業用のポートフォリオの中に紛れ込ませた一枚の作品を、 対面に胡坐をかいたその人に無言で手渡した。 「………」 その人は一瞬、目を見開きククッと笑いを堪えたかと思うと、 あははと大笑いしながら文机の上に作品を置いて腕を組んだ。 「これはね、普通なら花丸つけて返すよ、これだけ書けりゃ上等だ。ただ…」 そう言って心底楽しそうに私を見る。
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