書家と篆刻家

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「…せっかくだから筆の利点を活かしな」 「え?」 ハッとして瞬きを繰り返すと、その人はいつの間にか半紙の前にきちんと座り直して筆を構えていた。 傍らには控え目に墨汁が注がれた陶の器が置かれている。 「弾力があるんだ、強弱をつけてやろうよ。 浮かして、沈めて」 一瞬、呼吸をスッと飲み込んだかと思えば、ゆったりと発せられる言葉に呼応するかのように紙の上に墨が滑る。
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