桃色

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背中に悪寒が走るのを感じる。 私は、もうコールセンターのオペレーターではなくなっていた。 「一体、何なんですか? もう業務妨害は止めてください!」 強い口調に、隣のオペレーターもこちらを見る。 「……わかった、じゃ取引しようか?」 冷静にならなきゃ、 冷静になれ、 わかっているのに、自分のペースを崩されると堪らなく不安になる。 この感情は昔も感じたことがある。 「………なんですか?」 いつだろう? とても苦しく、 泣きたいのに泣けなかったあの頃…___ 愛しいものを失った悲しさを、 表現できないもどかしさ____ 「俺があの店に送るはずだった花束。 あなたが、直接届けてくれない?」 「!」 桃田さんの奥さんの店へ、 私が?――――― 「簡単なこと、俺にはそうしてもらう権利がある、 そうだろ?」 冷たい声…………。 鳥肌が痛い程に立ち始める。 ……まるで氷でできた薔薇のトゲに触れてしまったようだ。
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