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「A運送の……」
半開きのドアから覗いた灯りの点いたスタッフルーム。
そこに見えたものは……
「ちょっ!?あなた、なにっ?」
キスをしている女性と、
「………え……」
桃田センター長だった。
「……入り口でお声をかけたんですが……」
声が震えそうだった。
「先日、オープンお祝いに、こちらの手違いでお届けできなかった花です、
依頼主の水城さまから本日指定を頂きました」
キスしていて慌てて離れた2人は、
気恥ずかしげに、やや怒りさえあらわに、奥様であろう女性は伝票に雑にサインをした。
「あなたの会社、ドライバーじゃない子も配送するのね」
奥様より顔色が悪い桃田さんは、
「めったにないよ」
口元を拭いて、私を直属の部下だとは感じさせないようにか、
「お疲れさん」
とだけ労った。
――――"嫁さんには興味ない"――――
たしか、そう言わなかった?
「失礼します……」
まるで、恋人同士のようなキスだった。
マンネリ化した夫婦には見えなかった。
わたしは、一礼して伝票を握りしめ、
ギャラリーを飛び出した。
"今日で最後にする"
私の決意――――この不倫もだ。
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