紫Ⅱ

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羽田空港に、水城の、新しい仕事の出版社の人が迎えに来ていた。 「急な日程なのに、飛んできてくれてありがとうございます」 まだ若い青年だった。 「こっちも何かと助かりました。」 水城が会釈をすると、 その出版社の男性が私を見て、 「え……と、奥様?」 と愛想笑いを浮かべる。 「あ、あね……」 「恋人です。」 "姉" と言おうとした水城の言葉を遮ると、 ちょっと驚いた顔をしたから、少し可笑しかった。 「あ、やっぱりそうっすよね!雰囲気がラブラブだもん! 今から頼まれていた新居までご案内しますね。」 「ラブラブ…」 水城と私は、空港からそう遠くないO区の賃貸アパートに案内された。 「1Rで六万の部屋、ロフトまであるんだな」 実際は初めて見るらしく水城は、綺麗な部屋に満足していた。 「大荷物は明日には入るんですよね?手伝いに来ますから 明後日から撮影お願いしますね!」 案内してくれた出版社の人が帰っていくと 何もない部屋で シン……となってしまった。 「有名になると、手配色々してくれるんだね」 無我夢中で 身一つで東京に来てしまった私。 「雪がモデルになってくれたおかげだよ。 それより、住民票とか保険証とか通帳とか免許証とか、 色々変更大変だぞ」 「……うん……」 "何とかなる" 赤西さんが言ってくれた言葉……… 「とりあえず 今はユウといる時間を大切にして、手続きなんかは後回しにするよ」 ただただ、 今は、 誰にも邪魔されることなく、 水城と二人きりの時間を満喫したかった。
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