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はっきりと、よりはっきりと。
轟々と流れる河中に目を凝らし、いつもの比にならない集中力で視線を回します。
やがてボクの視覚は、とある一点に浮かぶ存在を認知しました。
板、でしょうか。大きめの平たい木材が激流に押され、右へ左へと進路を変えながら流されて行きます。
そしてその上に、胸元あたりから上を乗せるようにしてしがみ付いているのは、サリアよりもさらに幼く見えるおさげ髪の少女でした。
既に顔色は真っ青で、命を繋いでいるあの木材が転覆しようものなら、もう泳ぐ力も残っていないでしょう。いや、むしろあのような幼子がこの激流の中でこうして耐えていること自体、信じられることではありません。
「サリア、見つけたよ! 女の子が流されてる!」
「やはり……!」
ボクはサリアの頭から橋上に飛び降り、振り返ってサリアを見上げました。焦燥感がピークを迎え、元々色白な顔はもはや蒼白になっています。
「では早く、周辺の誰かに助けを求めましょう……!」
「ダメだ、あんなに流されてる。泳いでも追いつけっこないよ!」
「ではお父様に連絡して、早急に救助部隊を……!」
「それもダメだ、救助部隊が到着する前にあの子が力尽きちゃうよ!」
「ならば……釣りあげましょう!」
「落ち着いてよサリア、そんなの無理だってわかってるでしょ!? 釣り糸届かないし、釣り針流されるし……っていうかそもそも釣り竿なんか手元にないし!」
「ではどうしろというのです!」
徐々に強さを増す雨の中、サリアの頬を雨粒とは違う雫が伝いました。サリアなりに知恵を絞り、打てる手を必死で考えているのでしょう。
だから、ボクは思い出させます。意識してか否か、サリアが除外して考えている最善の策を。採るべき道を。
「サリア、君がやるんだ」
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