秘められた熱

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『見た目は、そんなに変わってない。ただちょっとだけ下腹が、その・・・あとは、白髪が増えた程度だ。頼むから、振らないで欲しい! じゃないと今までの努力が、水の泡になる。それだけは避けたい。仕事も安定したし、真面目にお前しか想ってないから。神と仏に誓う!』  んもう必死である。こんな僕を愛してくれる人なんて奈美以外、ありえないだろう。 「分かりましたよ、一応信じてあげます。で、いつどこで逢いますか――?」  内心ホッとしながら、逢う約束を取り付けた。  久しぶりに逢う奈美はきっと、あの頃よりも大人っぽくなっているんだろうな。  バルコニーに出て、ぼんやりタバコをくわえた。  これから紡いでいく僕らの物語は、どんな話になるだろう。  ボキャブラリーが増えた奈美に、やられっぱなしにならないよう気を引き締めつつ、体のラインも引き締めなければ。  タバコから出る紫煙と一緒に、桜の花びらが舞っていく。  奈美の住んでいるところはまだ、桜が咲いていない地方なので、この花びらを届けたいと思った。  花びらは無理でも――  仕事で使うデジカメを持ってきて、近くで咲いている桜の木を撮影する。  急いでパソコンに取り込み、メールに添付した。 『この桜と一緒に、お前のところに行くから待っていて欲しい。ずっとお前だけを愛していた』  本当はもっと伝えたい事があるが、多くは語るまい。このひとことがあれば、きっと伝わるはずだから。  ぽんと送信して、急いで旅行に行く支度をする。  ここに帰ってくる時は、もしかしたら、ひとりじゃないかもしれないな。  そんな淡い期待をしながら、いそいそと準備した僕。  亡くしてしまった妹、苦労した事などいろいろあったけど頑張った分、手元に何かが帰ってくる。そう思わせてくれたのは、彼女のお陰かもしれない。  ――奈美と一緒に幸せになりたい――  この秘められた想いが原動力となり、僕を突き動かしてくれた。この先もずっとお前のために、頑張り続けたいと思う。  おしまい
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