秘められた熱

3/34
前へ
/35ページ
次へ
 ――いつもの日常、変化のない毎日――  高校教師の僕に、突如厄介事を持ち込んだ可愛らしい生徒。  僕の認識の中でこの生徒は、表面上はごく普通で、マジメな生活態度をしているが、あからさまに僕自身を嫌っている上に、バカにしているような発言を日頃からしていることに気がついていた。  確か、NHKとか言ってたような?  何の略かは知らないが、正直なところ気分のいいものではない。  ま、好かれるような容姿をしているわけじゃないし、生徒にゴマをすってまで、人気者になろうとは思わない。  教師として、普通に生徒に接していけばいい。そう思ってこのときも、坂本に対応したのだった。 「とっ、ビックリした! 朝から存在感なさすぎるな、坂本」  出会い頭、ぶつかりそうになり慌てて体を退く。トイレから出てきた坂本の顔色がえらく冴えないことに、すぐ気がついた。  一緒に暮らしていた、妹の体調の変化に気づけなかった自分――そういう過去があるので、生徒の顔色を見るのがクセとなっている。 「朝からトイレに駆け込むくらい、具合が悪いのか?」  こっちは心配して訊ねているのに、ものすごくイヤそうな顔をしてくれる。 「いえ、大丈夫です。失礼します」  顔を背けながら素っ気無く答え、そのまま立ち去る坂本のスカートのポケットから、カサリと何かが落ちた。  グチャグチャの紙を広げると、面白いことが書いてある。目の前を歩く坂本の後姿をじっと見つめ、笑いながら声をかけてみた。 「今日は右側の髪の毛が、可愛らしく跳ねてるぞ坂本」  その言葉に、瞬時に跳ねた髪を押さえ振り返った顔は、かなり慌てたものだった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加