閑話:とある場所から見た風景

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 彼女は見ていた。  5年間ずっと同じ窓から眺める風景を。  ある時は雨が降り、ある時は子供達が遊んでいる景色を。ある時は雲が流れる風景を何時間も、彼女は見ていた。  そしていつも同じ結論にたどり着いてしまう。  私はいつも景色を眺めているだけ、部屋には看護婦さんと主治医、そして一部の親戚しか来ない。  私に会いに来てくれる人は居ないのだと。  それは彼女だって分かっている。  ここは病院の個室であり、訪ねて来る人なんて絶対に来ないのだと。  それでもどこか胸の隅で期待を寄せている私は我儘なのかな。  ふと、彼女は思う。  5年間ずっと同じ風景をただ見つめて。  一方的にお母さんから世間話を聞かされて。  夜9時になったら就寝。  そんな生活の毎日。  「……このままずっと、こんな生活が続いちゃうのかな」  彼女の呟きは誰の耳にも届くことなく。  視線は窓の外に固定されたまま。  今日も子供達の賑やかな声が聞こえてくる。
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