始まりは些細なことで。

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 田舎の若者が東京に遊びに来ると、よくこういった話を聞く。  『すっごい楽しい!』  確かに、他の県に比べてお店の品揃えは多いし、施設も沢山ある。物価が高いって言っても誤差の範囲だし。  ただ、東京都民の僕としては地元はあまり好きじゃない。  だってそうでしょ?  どこに行ってもビルばっかり、空気は汚れてるし。 だから学生時代に自然豊かな森林とか海とか憧れてた時期もあった。  だけどそれはただの憧れであって、何度か県外に遊びに行こうと考えてたけどずるずると引きずったまま普通の学園生活を過ごした。  授業を受けて、友達とゲームセンターやカラオケに寄って帰り、家でゴロゴロ。  そんな毎日。  だから僕にとって初めての県外であり、海であり、"外の空気"ってことになる。  季節は夏。 いくら海風が心地いと言っても、耳に張り付くセミの大合唱が暑さを倍増させる。 「……ぁー」  海岸のゴツゴツとした岩の感触を楽しみながら僕は一枚の紙を片手に、うんうん、と唸った。 「ダメだ。全然わからない」
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