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「君は友達なんて欲しくない様子だから、きっと自己紹介などされても困るのだろうな。だけどあえて言おうか。
僕が私立旭ヶ丘芸術学園で最初の友人になってやる。自分で言うのも恥かしいものがあるが、普段は決して自主的には友人を作らない。だからこれは特例なんだぞ」
「と、友達って……!」
犬神は顔を真っ赤にする。そして同時に、目の縁に涙を溜めた。
「か、勝手に人の友達になろうとするな! 私には友達なんて要らないのに! 学校には勉強だけをしに行ってるの! 転校生だからって、友人が出来ずに孤立しているなんて勘違いしないで!」
「そうだな。孤立しているのではないな。自分から孤立しようとしている、に修正した方が良さそうだ」
「…………」
僕をきつく睨んでくる。
拳を作ると、目に見えて解るくらいに強く握る。
犬神の反応で、大方の見当はついた。
そしてその結果だけ見ると、そう深く考えるような難しい問題でもなかった。
つまりこういうことだ。
犬神やひろは元々、友達を作らないような、ひねた性格ではなかった。
僕が指摘して泣きそうになるところを見ると、むしろ友達想いの女の子ですらあったのかも知れない。
だけど転校という転機を迎えることによって、仲が良かった友人と嫌でも離れなければならなくなった。
そしてその悲しみを経て、彼女はこう思ったのだ。
離れて辛い思いをするくらいならば、最初から友達なんて作らなくていい、と。
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