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「ありがとう、片野坂さん。それから、えっと……」
「僕も協力しますよ。それくらい、今まで迷惑をかけたことに比べれば容易いことです」
「そう言われると、なんだか打算的に二人の面倒を見ていたみたいで、ちょっと気が引けるな」
「じゃ、あくまで善意で。僕がそう言ったら、余計に頼み辛いですか?」
「いいえ、本当に助かるわ。よろしくお願いします」
祭先輩は深々と頭を下げた。見慣れないし見たくない姿に、僕は思わず顔を背けてしまう。
「それでは早速、準備しますか!」
腕捲りをするちはるを、先輩が止めた。
「片野坂さん、気持ちは嬉しいけど、今日は流石に学校の門は閉まっているわ。先生方も誰も居られないと思うし」
「あはは、そうでした。じゃあ、とりあえず、今のうちに段取りだけは決めておきますか?」
「ん……悪いけど、今日はここまでのお話で一区切りにさせていただけないかしら? 個人的な理由で悪いのだけど、少し調べ事をしたいの」
ちはるは気勢を削がれて不満そうにしていたけど、すぐに笑顔になり、胸ポケットから電話を取り出す。
「なら後で電話連絡でやりとりしますか? そうだ、響のも教えておきますね!」
「お前、勝手になあ……」
「自分から番号交換する度胸なんてないくせに? 本当はラッキーって思っているんでしょ?」
確かに今の今まで、僕と祭先輩は、お互いの携帯電話の番号など知らなかった。
電話でやりとりするときは、邪魔が入らない空間で、二人きりの会話をするのだろうか。
そんな当たり前のことにどきどきする自分が、なんだか子供っぽいと思えた。
「勝手ばかり言うけど……どうかよろしくお願いいたします」
再び頭を下げる先輩に別れを告げると、僕達は図書館をあとにした。
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