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もしかしたら、世界には僕しか本当は存在しないのではないか。時々、そう思うことがある。
世界の中に僕がいるのではなく、僕が存在するから世界があるのではないか。
勿論、それは突拍子もない考えだし、証明しようもない。
だって僕は僕以外の何者にもなれないし、何者かが僕になることも不可能だから。僕以外の立場から物を見ることが出来ないのに、僕が消えたあとに、この世界が存在するかどうか確かめようがない。
ただ確実なのは、僕が感じているこの世界は、僕が存在している間だけは確かに在る世界だということだ。
どうせ僕にしか感じることの出来ない世界だとしたなら。僕でしか僕の世界を証明出来ないのなら。
僕が他人と歩調を合わさず、好きなように生きることに、何の不都合があるだろう?
陽光が体中を照らし、じわりと汗が滲み出る初夏の午前十時。
誰もが待ち合わせに使う、商店街時計台前。
何度見ても、時計の針は約束の時間を過ぎている。
幼馴染の片野坂ちはると待ち合わせをしながら、僕はいつものように、この世界で他人と関わることの理不尽さを感じていた。
まさか「他人と自分が同じ世界を共有する」瞬間がやってくるなど、このときは思いもせずに。
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