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こいつと価値観が合っているとはまったく思えないけど、流石に長年近くにいたこともあり、僕の好みは熟知している。
おそらくこれで遅刻を免罪しろということなのだろう。
全体が水色の水筒から、透明色の温かい飲み物が、紙コップに注がれる。
たとえ初夏に不似合いなホットドリンクといえども、美味しいものは美味しい。
「こっちの赤い水筒には体力増強用のちはる特性栄養ドリンク、こっちは熱射病予防の塩水ね。あと、こっちが睡眠薬入りのブレンド珈琲。必要だったら、いつでも言ってね」
「いやいや、別に聞いてもいないのに説明されても……って言うかなんだよ、睡眠薬入りって?」
「だって手篭めにするつもりなんでしょ? 祭先輩を」
「するかっ!」
「あれっ? 響って、祭先輩のことが好きなんじゃなかったの? てっきり寝込みを襲う千載一遇のチャンスだから、誘いに乗ってきたかと思ったのに」
「お前、僕をどういう人間だと思っているんだよ……」
「たとえどんな大人しい男の子でも、眠った美女の前では狼になるものなのだよ」
「それ以前に、睡眠薬を飲ませて手を出すのは犯罪だからな?」
ちはるの馬鹿な冗談に付き合ってやるのは疲れるが、実は全面的に否定できるものでもなかった。
確かに僕は「祭先輩」が理由で、渋々ながらも、今日はちはるの誘いに乗ったのだ。
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