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ちはると祭先輩が待ち合わせに選んだ場所は、市内で唯一の図書館。
僕は殊更に勉強が苦手というほどでもないけど、それでも図書館なんて特殊な空間では、はりつめた空気を感じてしまう。
そんな中で祭先輩は、一際粛然とした雰囲気を身に纏い、図書館の一角にある席に座っていた。
椅子に腰掛けていると床に付いてしまいそうになるほどの長い黒髪に、高校生とは思えないほど凛々しく、やや面長の大人びた顔の造形。
重みを感じさせる睫毛に覆われたふたつの目は手に持っている分厚い本に落とされていたが、やがて僕達に気付くと、柔らかに色づきながらこちらに向いた。
「ようこそ。どうぞ、こちらへ」
藍色の落ち着いたデザインのワンピースに身を包んでいる先輩は、その袖から見える白い肌で俺達を手招く。
高校進学のときの面接風景を思い出すほどの緊張感に包まれながら、僕達は先輩の対面に位置する椅子に座った。
「今日はありがとう、片野坂さん。そしてお久しぶりね、響君」
「あ、はい、お久しぶり、です」
緊張が高まり、極まっていく。
図書館の静寂の空気に伝わる先輩の透き通った声は、それだけで心の内まで響き、僕を落ち着かなくさせる。
そんな僕を楽しむように、祭先輩は笑った。
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