おばあちゃんの記憶

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老婆の部屋の奥から声がした。 「おばあちゃん、シャンプーがないよ」 「そうだった。そうだった。今、持ってくから待っておくれ」 老婆は孫娘と住んでいた。その孫娘がちょうど風呂に入っており、どうやらシャンプーがきれていたらしい。それを聞き老婆は棚に締まっておいた買い置きのシャンプーを探す。 「どこにやったかねー?」 明かりをつけてはいるが、棚の奥の方にまで光は届いておらず、なかなか買い置きが見つからない。 「おばあちゃん、まだ?」 「ちょっと待っておくれよ」 慌てれば慌てるほど、なかなか見つからない。誰にでもよくある経験だが、なぜ急いで探す時ほど、なかなか物は見つからないのだろうか。目の前に目的のものはあるにも関わらずだ。 「どこだったかねー?」 溜めているコンビニ袋やら食器用洗剤、トイレ洗剤などはどんどん出てくる。このまま一年間は追加で買わなくても良さそうだ。それくらいたくさんの買い置きをしているのに、なぜかシャンプーだけ見つからない。 カナカナカナ。 何かが聞こえた。 「ん?何の音だい?」 音がする方向を見ると、ちょうどシャンプーが見つかった。 「あった。あった」 それを手に取り、風呂場に向かう。その時、老婆は気づかなかった。シャンプーのパッケージに虫が一匹ついているのを。それは這うように動き、老婆の手のひら、そこから肩の方へと向かっていた。 「はいよ、まりこ。シャンプー、あったよ」 「ありがとう、おばあちゃん」 それを受け取ると、孫娘は裸のまま、ボトルにシャンプーを詰め替え、空になったパッケージを老婆に渡した。 「はい、ゴミ」 「はい、はい。あまり長風呂するんじゃないよ」 「うるさいなー。どうでもいいじゃん、そんなの」 思春期の孫娘にその一言は余計だった。学校では、どの男子がカッコいいとか誰と誰が付き合っているとか、そんな話ばかりしている。そんな生活なのだから、当然、身なりを気にしすぎるほど気にしているのだ。 「はい、はい。わかった、わかった。ゆっくり入るがいいさ」 「わかればいいんだよ」 老婆は居間へと戻って行った。
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