虫の音

4/6
前へ
/36ページ
次へ
衣の音を歯ごたえと共に楽しむ。それが楽しくて買ってきたコロッケなのに、今日はそうもいかない。耳障りな虫の音。 それがさっきよりも遥かに大きくなってきたのだ。 「うるさいよ」 そう言ったところで虫の音は止まない。激しさを増すばかりだ。 「どこだ?!」 床にあった殺虫剤を手に音がしてくる方向を探す。が、なかなか見つからない。しかたなく、部屋全体に殺虫剤を撒く。 それから慌てて、両手を振った。思わず、飲みかけのビールとコロッケの上にまで殺虫剤を撒いてしまったからだ。 「あわわわわわ」 会社から帰ってきて、いったい自分は何をしているのだろう。そう後悔している間にも虫の音は続く。激しく続く。 「うるさいって言ってんの!」 そう言う自分の姿が、ガラスに映り、とても滑稽に見え止めた。 「どこにいるんだ?」 まるでわからない。右かと思えば左。上かと思えば下。そんな感じなのだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加