~古書とアイスコーヒーと鈴の音~

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   * * * その日の午前中は、いつもとは違う行動パターンをとっていた。 返却日が近づいた数冊の本を返すため、開館時間に合わせ図書館に。 返した後はすぐ、いつもの様にあの坂の上の古書店に向かうつもりだったのだが、ふらりと覗いた本棚に興味深い本を色々と見つけ、思わずそのまま読書に没頭してしまった。 気が付けば、数分程度の滞在予定が数時間。 「お腹空いたね」「ここのレストランで食べる?」という誰かの会話が耳に届き、僕はそこで初めて時間の経過を知った。 腕時計を確認すると時刻は正午をとうに過ぎてる。小一時間位の読書だと思っていた僕は、自分の性分に苦笑してしまった。 夢中になると自分でも驚くほど集中出来るのは僕の長所であり、だがそれを上回る勢いで短所でもある。「お前は没頭し過ぎて周りが見えなくなる」と親友にも何度も指摘され呆れられてるのだが、それを改めるのは中々に難しく……。 読み終わった本を棚に戻し、読みかけの本とキープしていたそれらは借りることにした。 そんな訳で、帰り道は空になるはずだった鞄には、来館した時より二冊も多い状態で本が詰まっていたのだ。 図書館と家の往復は休みなく続く。 ――あの店との往復が途絶えない様に。  
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