~古書とアイスコーヒーと鈴の音~

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午前中に訪れるのが確立されたパターンだったので、こうして午後来るのは初めてだ。 誰も来ない午前と違い午後は誰かしらいるかもしれないと思いつつ、店の重く厚い木製のドアを押した。 が、相変わらず小さな店内には誰もいない。 この店はこれでやっていけるんだろうか?……まあ、自分としてはこの静かで時が止まった様な空間は居心地が良いので、あまり盛況なのも……と思ってしまうのだが。 「おはよう……いや、こんにちは、か」 本棚に向かう店主の姿に声を掛ける。 短い髪を揺らしハッとこちらを見た麻衣は、「二宮さん」と挨拶ではなくまず僕の名を呼んだ。 「こ、こんにちは。いらっしゃいませ」 ニコリと微笑むその表情。明らかに違う感情が混ざっている。 屈託ない笑顔が常の麻衣には珍しい笑い方に、僕は少し不安になった。 「どうしたの?何かあった?」 「……えっ?」 「なんか一瞬ホッとした顔したから。何かあったのかと思ってさ。もし、僕で力になれることがあったら遠慮なく――」 言ってよ、と言いかけた所で、僕は自分の言葉が恐ろしく自意識過剰であることに気付き止めた。  
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