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大学の夏休みが始まってまだ数日。
僕は毎日課題の論文も書かず、坂の上にある古書店へ自転車を走らせる。
前までは白髪のじいさんがいた古書店は、最近彼の孫娘が後を継いだとかで……。
気が付けばその店は、古書を楽しみながらゆっくりお茶を飲める、そんな何だかお洒落なカフェ風に様変わりしていた。
「いらっしゃいませ」
重いドアを押せば、聞こえる鈴の様な声。乱れる息を必死に殺しながら、僕は平然とした顔でたった一言。
「アイスコーヒーを」
はい、と笑顔の返事がかえってくる。
ああ、顔が熱い……。これは、全力で自転車をこぎ、坂を上ってきたからじゃない。
僕は適当な本を一冊手に取り、隅の席に座った。
こっそり深呼吸して、整える呼吸。
古めかしいつくりの店に、座席は数える程だけ。手にした本も一応売り物らしく、裏表紙には小さな値札シールがあった。
毎日通っているが、客はいつも僕ひとり。静かな店では、アイスコーヒー一杯を飲む時間が、妙に長く感じられる。
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