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携帯電話が鳴ったようだ。胸元から取り出し目を細めて相手を確認する。目つきの鋭さに他の三人は、尋ねる事を止めた。
「去一下」
胸ポケットから香港ドルの束を取り出し、卓にポンっと置いた。その額は卓レートの負け分より10倍は多いだろう。
しかし周りの三人も金より遊戯がしたいといった様子で、溜め息を吐きながら男を見送った。
ネオンもまばらになる香港の裏通りを一人歩く。観光客相手の娼婦達も時間が遅いのか姿を見せない。
イギリス領から返還されて何十年が経ったであろう。経済発展を遂げたとはいえ、どこの国も盛り場は危険なものだ。
ほら、まさに今。
男の前方に、二人。
カーキー色のジャケットを着た男と、10月の時期にも関わらずTシャツ一枚の男が立ち塞がった。
「提供?」
チャイナ服を着た男は携帯を見つめながら歩き、そしてどこかに電話をし始めた。
無視をされた二人は顔を見合わせ、腰から刃渡り7cm程の果物ナイフを取り出した。場慣れしている男の様子を受けて、一気にケリをつけようと思ったらしい。
「ハイ、イェンロンデス。どうされました、マキトサン」
ぎこちない日本語を話す男は、笑いながら会話を続ける。
「イイデスヨ、見学キテクダサイ。今ドコデスカ」
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