『タイムリリースプロローグ』

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 Tシャツの踏み込みは早い。左のジャブを放ち、イェンロンは避けた。下に潜り込み、右拳で思いっきりアッパーを繰り出す。 ──『バシンッ』  イェンロンは片手でパンチを受け止め、そしてギリギリと握りつぶす。白Tシャツの男は頭突きを繰り出そうとした。 ──瞬間  イェンロンは寸前の所で頭突きをかまし、そして男の足を思いっきり踏みつける。  意外な攻撃に、男は間合いを話すこと無くお互いの距離は──『一寸』  イェンロンの後背筋はまるで生き物のようにうごめき、隆起した。  そしてゆっくりと息を吐きながら、男のみぞおちに。 ──寸打(ワンインチパンチ)  気を込めた一撃はとてもゆっくりだ。 ──『ドンッ』  しかし、鉄球でもぶつかったかのように白Tシャツの男は吹き飛んだ。うめき声をあげて倒れ、そのまま意識を失う。 「……イマドコデスカ」  電話をかけながらイェンロンは裏路地を再び歩く。  大通りに停まっていたタクシーを呼び止め、行き先を告げた。 「九龍城砦跡地(クーロンじょうさい)」  運転手はしかめっ面を浮かべながら後ろを振り向き、イェンロンに話しかけた。 「什麼都沒有」    イェンロンは構わぬ様子で、もう一度同じ事を呟く。 「九龍城砦跡地」  運転手は怒鳴ろうとしたが、投げつけられた札束を見て嬉々として運転し始めた。
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