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小舟の内に目を遣ると、どうも小舟と言うには大きすぎるもののようである。カヌーの様な形状から、勝手に小舟だと思い込んでいた。 しかして大男である堀井と、僕とが並んで座っても向こう側には充分な通路があるのだ。船の縁は腰よりも低いところにある。 何とはなく、切ないような、懐かしいような不思議な心地良い気分だった。堀井の隣にいることが、何だか誇らしく感じて得意気に鼻を鳴らす。 「こんばんは。お若いお二方。彼処にある月が見えるかな?」 突然通路を挟んだところに座っていた老人が、こちらに向けて話しかけてきた。堀井ととりとめのない会話をしているところに、水を差されたようで彼に意地の悪い視線を向けてしまう。黒いコートに身を包んだ彼のズボンの右足は、不自然に萎んでいた。 少しして、僕は老人が突然現れたように感じて、少し警戒して身を引いてしまう。 「あぁ、あれか。見えるよ、随分デカイもんだな。」 堀井は、知人であるかの如く陽気に返した。ふと見上げると、今までに見た月よりも遥かに大きいように見えた。あまりの大きさに手が届いてしまうのではないかと思う程に。思わず本当に手を伸ばそうとすると、苦笑いを浮かべた堀井に制される。
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