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溜息を吐くと、ついにはまた席へと戻ろうとした。 その時ふと、服の裾を引っ張られる。振り向くと先の少女と同じくらいの少年が僕の服を握り締めている。ぎょっとするも、少年の小さな身体を見て安心する。 「どうしたんだい?」 どこからともなく次から次へと色々な人間が出てくる。僕の気付かない内に其処にいる。恐怖よりも、関心であった。 問いかけるも、年端のいかない少年はこちらを見たまま動かない。あまりに純粋な、無垢な瞳。この世の穢れをまだ知らないのだ。ふと、服を掴んでいる腕に目を遣ると、無数の痣が見える。痛々しいそれは、少年の青白く細い腕に刻まれている。 少年は僕から目をそらすことなく、口をぱくぱくと動かした。その度に声にならない声を発し、はぁはぁと、息を吐いてしまっている。少年は両手を自らの耳へと持ってくると、それを塞ぎ込むように力を入れていた。 自分でも気づかないうちに、涙が流れる。少年の身を思い、自らの存在を恨んだ。頭を撫でてやろうとすると、反射的な速度で身を引いてしまった。 「ごめんね・・・」 何故だか、謝罪の言葉が口をついて出た。あまりに無情で、無慈悲だ。悔しさに拳を握りしめてしまう。親の代わりになったつもりもない。贖罪の意味を込めてでもない。 しかし少年は首を傾げるだけで、反応を示さない。その代わりに、にっこりと微笑むと、僕の草臥れた腕にしがみついてきた。
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