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「鬼の淵か、恐ろしいところだぞ。」
堀井がそう言うので、外へと目を遣ると、遠くでぼんやりと赤く光るものが見えた。
「あれはなに?」
「鬼だよ。」
船はそちらへとずんずん進んでいく。赤い光はやがて近くなる。轟々と燃え盛る炎が、辺り一体を爛々と照らし出している。怖くなってしまい、そちらから目を背けてしまう。
「あれは、見ない方がいい。」
堀井の言葉に素直に従う。湧き上がる恐怖を抑えるために、俯き膝に置いた手を握りしめた。目まぐるしく変わる情景に少し草臥れてしまう。
「この船は、どこまで行くんだろう。」
力のない、小さな呟き。色々な人に出会った。彼らは恵まれず、試練を与えられた人たち。それでも彼らは努めて陽気に、自分の定めた場所を目指して歩いていたのだ。
そこまで考えた時、自分自身が、酷く滑稽なものに思えてきてしまう。
「どこまでも行くさ。望むならな。」
「堀井は、どこへ向かうの?」
彼はその問いに頭を掻きながら答える。こっぱずかしそうに、苦笑を浮かべるその表情はしかし哀しみを帯びているようにも見える。
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