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辛気臭い雰囲気の中、坊主の読経の声だけが静かに響き渡る。すすり泣く様な声も、読経の合間に時折聞こえてくる。
喧しい。それでも、葬式で泣いてくれる人間がいるなんて、それだけで僕より何万倍もマシじゃないか。
すすり泣く声は徐々に大きくなっていく。目を遣ると、堀井の母親だ。随分と老けたように見える。その横で、若い女性も顔を覆っている。あぁ、噂の彼女か。
遺影に写っている笑顔が憎らしい。
「じゃあ、お先に。」
そうでも言わんばかりの表情で、僕を見つめているのだ。疎ましい。
息子を亡くした悲劇の親か、恋人を亡くした悲劇のヒロインか。白々しい。
あの涙は自分の為にあるものなのだ。故人の為に流す涙じゃない。堀井の無念を悼む涙じゃない。堀井を失った自分が可哀想で流しているものなのだ。
胡散臭くて、信じられない。
喪主の挨拶など頭に入らない。
自然と、彼との記憶を思い出す。同じアメフト部に所属していて、彼はチームの中でもいつも輝いていた。彼の周りにはいつも人が多く、皆笑っていた。
僕も、あの頃はよく笑っていた。加藤と三人で、何をするのも楽しくて、バカなことをやっては三人で笑いあった。卒業しても、と思っていた。
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