有象無象

7/7
前へ
/35ページ
次へ
きっと、限界だったのだ。身体はいたって健康だ。学生時代の部活のおかげか、激務な仕事を続けても何ら支障は出ない程度には。しかし、心がついてこないのだ。あらゆるものへの関心が薄れ、感動を失った。 それに気付いた時に、決意したのだ。 いっそのこと、死んでしまおう。 全てを投げ捨てて、解放されよう。心をすり減らすこともなく、無になろう。天国や地獄など信じない。神や悪魔なども。あるのは上司の叱責と、他人への羨望と嫉妬、それだけ。 何ら恵まれたこともなく、この手には何もないのだ。失うものは何もない。 哀しむ両親はいない。既に交通事故で何年も前に他界している。友人と呼べる者も多くない。恋人も数年前に別れたきりだ。 あぁ間違いない。僕のことを悼む人間は誰一人としていないのだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加