ランプ

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 ある日のことだ。立ち寄った骨董屋でY氏はそれを見つけた。それは、日本では珍しいインド製の照明器具、ランプであった。如雨露の口のように見える部分に火を点けて明かり代わりにする日本の蝋燭のようなものだ。形は、昔話にでも出てくるような古典的な形をしている。ただ、そんなランプに関するうんちくとは関係なく、Y氏はそれを見た瞬間に強く心を惹かれた。  ランプに火を灯せば、どんなに幻想的な光景が暗闇の中に広がるのだろう。考えただけでも、胸が躍り出しそうだった。Y氏は店主にランプが、幾らかと聞いた。  ところが、店主は気むずかしそうな顔をしていた。買えないほどに高価な品なのだろうか。どうも違うらしい。店主が口にした値段は子供にでも買えるほど安価だった。ただ、店主の顔が思わしくない。売りたくないのだろうか。それでも、Y氏はすっかりランプを気に入っていた。どうしても、ランプが欲しく店主に粘り強く、売るよう頼み込んだ。やがて、店主は折れ、ランプを売ってくれた。Y氏はその場で、料金を支払うと嬉しそうな顔をして自宅へと持ち帰った。  自宅に帰った時、日は落ちて辺りが薄暗くなろうとしていた。ランプを灯すにはいい時間帯である。ひとまず、茶の間のテーブルにランプを置くと、改めて蛍光灯の明かりの下でランプを眺めてみる。骨董屋で見た時も中々の素晴らしい品だと思っていたが、こうして見直してみると、よりその素晴らしさが伝わってきた。神秘的で今にも何かがおきそうな雰囲気がある。 「そう言えば、アラジンと魔法のランプという話があったな」  Y氏は昔、子供の頃に読んだ絵本を思い出した。ランプを擦ると、中から魔人が現れて願いを叶えてくれる内容だけが、心に強く残っていた。  思い出してみれば、つくづく、このランプはその絵本に出てきたランプと似ていた。見ているだけで、童心に返り、ついつい、ランプを擦ってみたくなった。 「まさかな」  Y氏は冗談交じりに笑みを浮かべると、ランプを絵本と同じように擦ってみた。
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