ランプ

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 魔人は当たり前のように言いながら、Y氏に請求書を出した。何も考えずに注文した数々の品だ。魔人から請求された額を見て、Y氏は目が眩みそうになった。途方もない金額が、そこには記されていたからだ。到底、今すぐ払える額ではない。 「詐欺じゃないか。有料なんて・・・」 「私は願いを叶えると言っただけで、一回も無料とは言っていません。それは、あなたが勝手に勘違いをしただけのことです」 「仕方ない。一部だけは残して、あとは返品だ」 「返品はできません」  魔人は事務的な態度で言う。さっきまでの神秘的な雰囲気はどこにいってしまったのか。悪徳のセールスマンと何一つ変わらなかった。それに、請求されたところで払えない事実は変わらない。 「では、こういうのはいかがですか」  魔人はY氏の考えていることを察したのか、別の紙を差し出してきた。借金を返せるのならばと、Y氏がそれを受け取った。そこには、 「実労返金?」 「私の代わりに働いて借金を返すのです」 「それって、どういう・・・」  不可解なことをいう魔人にY氏が聞こうとしたら、身体が軽くなるのを感じた。Y氏の身体は軽くなり宙に浮かんだ。何が起こったというのか、Y氏が驚いていると、自分の身体が煙りになろうとしているのを見た。 「た、助けてくれ・・・!」 「それは、できません。もう私は魔人ではありませんから。これからは、あなたが魔人です」  魔人だった男は淡々と言った。Y氏は抵抗する間もなくランプへと吸い込まれていった。部屋いっぱいにあったY氏が注文したモノは全て彼が消えると、同時に煙りのように消え去った。 「やれやれ、やっと元に戻れた」  男は久々の人の姿に戻れたのを喜んでいた。男はかつて、Y氏と同じようにランプに閉じ込められていた。出られる条件は一つ、自分が抱え込んだ借金を返金するだけだった。ただ、例外もあって、その代金は自分が支払わずとも、次にランプを使用した者が借金を返せなかった場合は前の借金は無効になりランプから解放される。いつの頃から、このようなランプの魔人もどきのような事が繰り返されてきたのか、解放された男は知らないし、知りたくもなかった。
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