始まり

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…十数年前の出来事からこの世界は始まる。 「はぁ…はぁ…はぁ…」 タッタッタッタッタ… 「はぁ…はぁ…はぁ…」 タッタッタッタッタ… 交互に繰り返される息遣いと足音を聞くだけで その男がどれだけ急いでいるのかが分かるだろう。 男は階段を上る。 「はぁ…はぁ…はぁ…」 彼の名前は雨宮蓮。 雨宮は学生時代は陸上部であり、 その当時はかなり過酷な鍛錬の毎日であった。 しかし、彼が今置かれている状況は、 そのどれにも比べるのが悍ましい程であった。 ここで述べているのは体力的な問題ではない。 単純に体力的な問題であれば、学生時代の方が遥かにに辛かったであろう。 今言いたいのは心の、つまり精神的な面のことだ。 彼は、元旦の駅伝大会で1位でタスキが回ってきたときよりも、 体育祭のリレーでアンカーを任されたときよりも、 当時のどんな瞬間よりも遥かに焦っていた。
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