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荷物を取りに教室へ向かおうと振り返った時。
「あ、ハムちゃんと陰陽師!」
長谷川先生と冴島先生が、話ながら教室から出てきたところに遭遇して、息が止まる。
「………っ」
「長谷川先生、わたし、巫女です」
「どっちでもいーじゃん!
てか柴田、お前友達いたんだなー!」
「………なにげに失礼ですね」
ふはははは!と相変わらずチャラい長谷川先生と談笑する二人の声が遠くに聞こえる。
「……郁ちゃん?」
采女の声にはっとして顔を上げると、視線が私に集中していて。
慌てて微笑んだ。
「ごめん、ボーッとしてた」
「………二階堂、早く行こう」
「ええ……。それでは先生方、失礼いたします」
折り目正しくお辞儀をする采女に続く。
「先生、さようなら」
「………はい、また明日な」
笑顔で挨拶する私に少しだけ、瞳が揺れた気がしたけれど、すぐにふわり、先生の表情が和らいだ。
胸がトン、と跳ねる。
ああ……やっぱり簡単には消えないなぁ。
足早に隣を通り過ぎるときに感じたタバコの薫り。
記憶が呼び戻されて胸が詰まる。
本当に……恋は魔物だ。
大丈夫。
今は辛くても無理やり笑っていたら、そのうち頑丈なかさぶたができるから。
いつか本物に生まれ変わるから。
ポケットの上から、ぎゅっとポーチを握りしめた。
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