紡ぐ者

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体を暖かいものがふわっ…と包む 恐る恐る目を開けると、そこには藤堂君の腕があった 「辛かっただろ…ありがとう、話してくれて」 そっ…と回された腕が、ゆっくりと私を藤堂君に引き寄せて行く 「もう…大丈夫だから」 気が付くと体の震えは止まっていた 何に大丈夫なのかは分からない けれど、私の体は安堵という温もりに包まれた 「俺は何処へも行かない」 温もりに包まれながらも藤堂君を信じたい自分と、そうじゃない自分がせめぎ合う 結局は傷つくのが嫌なんだ、けど…今は… 「ずっと…ここにいる」 この腕に包まれていたい 藤堂君の言葉を信じたい が…その気持ちは一瞬にして闇の中に沈んだ 「…っても信じてもらえないかもしれないけど…今まで最低なことしてきたから」 警戒して瞳孔が開くのが分かった 出来る事なら聞きたくない 『やめて!!』…と言おうとしたが空回り 喉につっかえた様に出て来なかった 「雪野が知っている通り他に女がいる、セックスするためだけの女が」 その一言がさっきまでとは違った不安が私を襲い、私は再び体を強張らせた 「ゴメン、不安にさせて」 藤堂君は私の背中をそっ…と胸へ寄せた 私の体は小さく、固くなったまま…だけど、藤堂君は私を離そうとしない 「けれど…雪野と付き合ってからは連絡も取っていないし、これからもそのつもりはない」 「でも…」 不安を口にしようとした瞬間 藤堂君は力強く私を抱き寄せた 「俺がしたいのは雪野だけだから」 強い力と共に込み上げるような藤堂君の気持ちが伝わって来る 「だから…待ってる…雪野が大丈夫って思えるまで、いつまでも…」 私は頷く事も出来ず、ただ…藤堂君の腕の中で、小さくうずくまっていた
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