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「何かありましたか?」
デスクの前に立ったのはいいが、いつもと課長の表情が違う
どちらかと言うと、フランクな課長がいつになく真剣で強張っている
何かミスでもしたのだろうか?
頭中を張り巡らしても思い当たる節がない
「体…大丈夫か?」
黙っていた課長が小さく口を開いた
「あっ…はい、お陰さまで」
想像と違う事を言われて拍子抜けそうになる
「熱中症だったって?あまり無理するな」
「はい…すみません」
良心が痛む…図らずとも本心だ
「いや、謝らなくていい」
何とも言えない本心を隠し、苦笑いすらできない
嘘は吐くものじゃないと改めて思い知らされている気がする
「休んだ分働きますのでお願いします」
と、頭を下げた
これが、今見せられる限りの誠意だろう
頭を上げたが、課長の様子は変わっていなかった
やはり、本当にミスしたのだろうかと心配になる
首筋から変な汗をかきそうになった時、課長が重い口を開けた
「辞令が出ている」
その一言にさっきまでとは違った緊張が身体中を走った
「行き先は上海、期間は2年から3年…行ってくれるか?」
直ぐに浮かんだのは藤堂君の顔
「はい、喜んで」
私は差し出された用紙を受け取った
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