紡ぐ者

20/97
前へ
/543ページ
次へ
覚悟はしていた いつかは行かなくてはならないだろうと だから…心の準備は出来ている なのに…足元がこんなにも揺れるのは何故だろう 藤堂君を信じられなくても、当たり前の様な毎日が続いていくものだと思っていた 遅かれ早かれ来た辞令 出来れば…もう少し一緒にいたかったな 否…早くてよかったのかも もう少し遅かったら…きっと戻れなくなる 手遅れになる前でよかった 手にはいつもの冷えたカフェオレ ずっと持っていたから少し温くなっている 「はぁ」 殺風景な天井を見上げてため息を吐いた 誰もいない休憩室 お昼だけど今日は食欲ないや… 片手を顔に当てて目を覆う 藤堂君に言わなきゃね、きっと早い方がいい… エアコンの風が直接顔に当たるのを感じる 肌、乾燥するなぁ… 場所変えよう…これでも化粧品会社の社員だ、少しは自覚持たないと そう思ってゆっくり立とうとすると 「雪野さん」 真後ろから声が聞こえた 誰かは分かる 「大丈夫ですか?」 「大丈夫、滝本君こそお昼は?」 いつもの元気な笑顔はなく、心配そうに私を見ている 「さっき食べて来ました、雪野さんまだですよね」 「何でもお見通しだねぇ」 滝本君の洞察力の鋭さに思わず笑ってしまった 「また、体壊しますよ」 「そうならない程度にします!!」 笑って退けたが滝本の表情は変わらない 「座りますね」 そう言うと滝本は私の隣に座った
/543ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1569人が本棚に入れています
本棚に追加