紡ぐ者

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行きたくない、と言ったら嘘になってしまう 杏さんや、一生懸命な仲間が待っている 新しい事にも挑戦してみたい 海外の人にも商品のよさを伝えたい SNSで誰とも繋がれる時代だけれど、そうじゃなくて、直に顔を合わせて、コミュニケーションを取りながら商品を知ってもらいたい ずっとやりたかったことが出来る 私にとってはそれだけ それだけ…の筈だった 藤堂君がこんなにも大きな存在になっていなければ、今頃は引っ越しの準備に浮き足立っていただろう 「俺…自信ないです…」 滝本君が俯きながら、ぽつり…と話した こんな弱気な滝本君は始めてだ 「…って、もう一人立ちしてるでしょ?」 背中を押すつもりで言った 最後まで私は先輩でいたい 「雪野さんがいないと…今まで雪野さんの背中を見て、それを追い掛けて…雪野さんが近くにいたから頑張れた…それだけです」 滝本君の目にそう映っていたのなら光栄だ 良き上司でいられたのだから 「私はただ、がむしゃらに仕事してただけ…この仕事が好きで、商品の良さを伝えたくて、手に取ってくれた人に喜んでもらいたかった、お客様の笑顔が見れると嬉しかった…それだけだよ」 「ずるいですよ…」 滝本君は私を見てははっ…と笑った 「やっと追い付けたと思ったら、また遠くに行ってしまうなんて」 「遠くって行っても2、3時間向こうだよ」 滝本君はまた、ははっと笑った 「そう言う所です、雪野さんに惹かれるのは」 私の方を向いた滝本君の瞳は何処か寂しそうに見えた 滝本君の気持ちには答えられない… 藤堂君の気持ちにも、きっと…答えられなくなる 「本当…ずるいです…」 滝本君は天井を見上げると、笑うようにため息を吐いた 「じゃぁ…戻りますね」 そう言って立ち上がると、振り向き様に 「また…追い付きますから」 と言って笑った
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