紡ぐ者

28/97
前へ
/543ページ
次へ
「辞令が出たの…場所は上海、任期は2年から3年」 顔を上げると、藤堂君はただ…穏やかに頷いて聞いてくれていた 「だから…だから…」 この先の一言に言葉が詰まる…出来る事なら藤堂君とずっと一緒にいたかった…これからも、ずっと… スカートをギュッと握る 「別れて…下さい…」 私には耐えられない、ずっと離れていることなんて その間に藤堂君はまた…違う人と…体を交わす… 嗚咽が出そうになるのを必死で堪えながら首を降った 目の前の残像を払うように 「う…ん…」 藤堂君は大きく首を捻った 「その必要ある?」 「だって、会えなくなるんだよ…」 私は俯いた顔をそっと上げた 「2、3時間向こうだろ?日本の端から端移動するより近い」 真剣なその一言にハッ…とした つい数時間前私が滝本君に言った事だったから 「会いたかったらいつでも会いに行く」 張り詰めていた物が何処かで消えた 同じ思考だった事に安堵して笑みが溢れそうになる 「だから…言うなよ…別れるなんて…」 藤堂君の言っている事は本当だと思う 信じるとか、信じないとか、そんなの関係なく… ただ…私を想ってくれている また、他の人に欲求をぶつける時があるかもしれない…けれど… 「私も、会いたかったら会いに行っていい?」 そう返事すると 「もちろん!!」 と、昔の様に無邪気に笑い 私を腕の中に抱き締めた
/543ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1569人が本棚に入れています
本棚に追加