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次の日の夜、いつもの居酒屋に滝本君を誘った
「ここへも当分の間来れなくなるんですね…」
滝本君が生中片手に遠くを見ながら呟いた
「…って、言っても行くのは1か月後だよ?まだ来れる」
「とぼけないで下さい、何で今日呼び出されたかって事ぐらい分かってます」
そう言うと滝本君は口をへの字に曲げて、頬を少し膨らました
「どれだけ雪野さんの事を見てきたか…気持ちは決まったんですよね」
アルコールが入っているのもあってか、寂しそうな子犬の目をして私を見ている
頭を撫でてよしよし、としてあげたいところだけどそうはいかない
「僕の事は遠慮しなくていいですから」
滝本君の素直な気持ちにも答えなきゃいけない
覚悟を決めてここへ来てくれているんだから
「ごめんなさい」
私は滝本君に体を向けると、深く頭を下げた
「頭を上げて下さい、僕が…何かしてしまったみたいじゃないですか」
端から観ればそうかもしれない
けれど…これくらいしないと滝本君の気持ちには答えられないような気がした
「もう…いいですよ…」
滝本君の一言で頭を上げると彼は何処か寂しげに微笑んでいた
「あの人がいいんですね…」
何で滝本君が藤堂君を知っているのかは分からないけど、私をただ真っ直ぐ見つめる瞳の奥にうっすらと涙が見えた
「うん…どこがいいのか分からないんだけどね」
「ははっ…」
そう、力なく笑うと滝本君は上を見上げた
「俺の敗けだ…絶対俺の方が雪野さんを幸せに出来るのに…」
「ごめんね…」
きっと滝本君の方が私を大切にしてくれる
けれど…藤堂君から心が離れなかった
「何回も謝らないで下さい」
そう言うと、滝本君は拗ねたように顔を膨らました
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