紡ぐ者

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社内でも私の異動の話は広まっているらしく、歩く度にいつもとは違った視線を感じる それは何処か痛かったり、憐れみであったり様々だ 「聞いたよ、異動の話」 昼休みに夏菜が前に座った お盆には涼しげな冷やし中華が置いてある 「う…うん、当分の間あっちに行くことになった」 「そっか…」 夏菜のため息にも似た声が、騒がしい食堂に消えた 「まぁ、行くのは1か月後だけどね」 「って直ぐじゃない!!」 「まだ時間あるよ」 「いや、無いよ!!」 よく分からない押し問答が続いた後 「寂しいよ…私は」 夏菜がぽつりと声に出した 「ずっと…一緒だったからさ」 確かに…部署は違えど夏菜とは同期 お互い違う場所で切磋琢磨し合ってきた 夏菜の姿がどれだけ励みになったか分からない 「そだね…それは私も一緒だよ、けど側にいないだけで私は違う場所で頑張るから」 「智美の方が大変だよね」 夏菜は視線を落とした 「けれど、大変っては思ってないかな?楽しさ半分ってとこ」 夏菜は顔を上げてぷっ…と笑った 「智美らしい」 「そう?」 「うん!!」 そう言って笑うと夏菜は箸を手に取った 「さぁ、食べるぞ!!放置してると冷やし中華が温くなる」 「そうだね」 私も夏菜につられる様に笑い、残っていたカツ丼に手をつけた
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