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『帰ってきてくれないか?』
短大を卒業後、わざと家から離れた土地に就職し、一人暮らしを満喫している私に突然の電話。
必死に絞り出すような声の父が、電話口で小さく呟く。
『母さんが、雪音(ゆきね)じゃないと…嫌だって言うんだ…』
私の母は三ヶ月前に倒れ、手術は成功したが左半身に麻痺が残ってしまった。
『本当によく動くお母さんね』と言われていた母が、その日から思うように動けなくなった。
“病(やまい)”の面では病院は退院できたものの、リハビリに通ったり身の回りから家のこと……
到底、父一人ではどうにもできないので、ヘルパーさんに来てもらっていたらしい。
だが、その来てくれていたヘルパーさん が気に入らないのか、よりによって私を指名するなんて…
「兄さんや義姉さんだってそばにいるのに…」
(普段、あれだけ何かにつけて実の母親みたいに接してくれてるのに…)
『お前がいいって…お願いだから帰ってきてくれ』
父の声は苦し気に聞こえた。
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