** 帰郷 **

2/7
前へ
/61ページ
次へ
『帰ってきてくれないか?』 短大を卒業後、わざと家から離れた土地に就職し、一人暮らしを満喫している私に突然の電話。 必死に絞り出すような声の父が、電話口で小さく呟く。 『母さんが、雪音(ゆきね)じゃないと…嫌だって言うんだ…』 私の母は三ヶ月前に倒れ、手術は成功したが左半身に麻痺が残ってしまった。 『本当によく動くお母さんね』と言われていた母が、その日から思うように動けなくなった。 “病(やまい)”の面では病院は退院できたものの、リハビリに通ったり身の回りから家のこと…… 到底、父一人ではどうにもできないので、ヘルパーさんに来てもらっていたらしい。 だが、その来てくれていたヘルパーさん が気に入らないのか、よりによって私を指名するなんて… 「兄さんや義姉さんだってそばにいるのに…」 (普段、あれだけ何かにつけて実の母親みたいに接してくれてるのに…) 『お前がいいって…お願いだから帰ってきてくれ』 父の声は苦し気に聞こえた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加