** 帰郷 **

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私は、正直なところ…… 母が苦手だ。 何でも完璧にこなし、お茶とお華を家で教え、美人で頭もよく… おそらく、昔から私を知る人間にすれば、『自慢の母親』に映っていただろう。 完璧な母親… 完璧な女性… そう、私とは嫌になるくらい、まるっきり正反対だ…。 母は幼い頃より、私に礼儀作法を含めあらゆる面で厳しかった。 どれも『私の為に』とわかっているつもりではいたが、当時の幼い私には、どれも息が詰まることばかり… それでも、私なりの努力をしているつもりだった。 だか、残念ながらどれ一つとして結果として表に現れることはなかった。 報われない努力が胸を苦しめる。 『本当にねえ。あんな素晴らしいお母様なのに、なぜこの娘さんなのかしら?』 そんな嘲笑じみた感情を抱かれているんだろうと思い、周囲の大人達の目から逃げていた。 ただの被害妄想かもしれない。 しかし、母を知る全ての他人の目や、私に向けられる母の目が、私にはそう言っているようにしか見えなかった。 年々積み重なる“目”に、見えない“重荷”から、ついには耐えられず逃げ出したくて、わざと都会へ就職を口実に家を出た。
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