** 帰郷 **

5/7
前へ
/61ページ
次へ
「お父さん。少し…考えさせてよ… 」 私はその場はそう言って電話を切った。 母を看る… どうしても、素直に『うん』と言えない。 娘として、母親の介護は当然のことと言えば当然のことなんだろう。 母親と共に過ごす時間が増えると言うことは、よく言えば幸せなのかもしれない。 《孝行のしたい時分に親はなし》 昔の人はこんなことを言っていた。 本当にそうかもしれない。 だが、それは問題のない親子関係を築けていた場合ではないか? 表面上は確かに穏やかな親子関係が成り立っていると思う。 しかし、私の中には拭っても拭っても、消えないものだってある。 虐待を受けたと言うわけではない。 愛情は注がれていたとは感じるが、私自身が長年の思いから母に対して冷めているのだろう。 “仕事”として、全くの他人を介護するのと、実の母親を介護するのとは違う。 ましてや、私は…色んなことを割り切る自信がない。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加