第一章

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「うん。僕と結婚してくれ」 「はい」 そんな何度も繰り返してきた言葉にも、喜んでくれる彼女が可愛くて、リオンはリリスを再び抱き締めた。 「うん。僕は、ずっと側にいるよ」 ☆☆☆☆☆ あれから五年が経ち、今は花嫁衣装のリリスを抱き締めている。 クラビス村の花嫁衣装は白を基調に、鮮やかな色のレース生地を帯状にして肩に重ねたドレスだった。 美しい花嫁と結婚を祝福する友人・家族はリオンの手の中で冷たくなった。 村は焼かれ、リオンの不幸を嘲笑うかの様に高々と業火を巻き上げる。 リオンの手には、家宝の細剣が握られている。式典では、宝飾剣を帯刀するが、田舎の村にそんな高価な物は無い。その為に、刃の付いた剣を帯刀していたリオンは自身だけは守れた。 たった数時間の出来事だった。 村で結婚となれば、村人全員が祭りの様に総出でやってくる。 皆が喜びに酒を飲み、踊り疲れた夜の闇へ、盗賊の群れは火を放った。 赤々と燃ゆる幻想的な炎の世界を見つめ、何故自分だけは生きているのかと、リオンは目だけを動かした。 愛する者達に紛れ、忌むべき盗賊の死体。答えは簡単だった。自分が殺したのだ。血に染まった刃は黒く月光を跳ね返している。
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