初恋

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ユウさんは、帰りが遅かったくせに、 朝の七時半には起きてきていた。 「光文舘、 スタジオの途中だから乗せていくよ」 「あ、助かります!」 朝ご飯は食べないのか、コーヒーだけを口にして、すでに身支度を整える。 『この人、髭もあんまり生えないんだな……』 雪さん同様、 色白で 髪は艶やかな黒でサラサラ。 まるで宝塚の男役にいそうな人。 亡くなった父さんは、どちらかというと、ゴツゴツした男っぽい人だったから、 母さんと雪さんは この繊細さに母性愛を燻られたのかもしれない。 「いってらっしゃい」 菜月を抱っこして、 二人を見送る雪さん。 手を軽く振って、いろんな機材を積んだ車を走らせるユウさんは、 上着のポケットから封筒を取り出した。 「これ、少ないけど、就職祝」 「は?」 両親がいないのと変わらない 俺達のことを いつも、気にかけてくれている。 「要らないよ、俺 社会人だぞ」 俺は、金なんか欲しくない。 「じゃ、妹の律子ちゃんに小遣い」 「だから要らねーって!じいちゃん達は資産家なんだって!マジで」 「…………資産家だって、いつどうなるかわからねーだろ?」 今さら、 親の愛情でもない。 「……それよりさ、 夫婦で、 いつも、あんなことしてるの?」 写真家としての名誉と栄光と、 好きな女を抱ける自由______
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